「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の 在り方に関する検討会」報告書
解雇・退職に関する紛争の予見可能性を高める観点から、厚生労働省内の検討会で議論が続けられ、今回報告書の形でまとめられました。
この報告書は、産業競争力会議や規制改革会議における議論が「日本再興戦略」改訂2015(平成27年6 月30日閣議決定)及び規制改革実施計画(平成27年6月30日閣議決定)としてとりまとめらたのを受け、厚生労働省の検討会で2年間の議論の末にまとめられました。
今後、さらに「透明かつ公正な労働紛争解決システム」について、厚生労働省の労働政策審議会で審議される予定です。
このブログでは、報告書の概要を以下の通りまとめました。少し長くなりましたが、それでも書ききれない論点も多々あります。不十分な点もあると思いますが、よろしければお読みください。
1 現行システムの現状の評価と改善の方向性
1)現状
ア 労働局の相談、助言・指導、あっせんは、裁判に比べて簡易・迅速な処理が行われ、無料であることから紛争処理の最大の受け皿である一方、被あっせん者の参加率が6割にとどまり、内容も両者の主張の幅寄せを試みるという現状であり、改善が求められる。
イ 地方自治体(労政主管部局、労働委員会)においては、労働局の対応と比べて時間をかけて丁寧な処理をしている。一方、認知度が低いため取扱件数が少ないという課題がある。
ウ 司法による個別労働紛争の解決システムとして、労働審判制度が挙げられるが、着実に利用が進んでおり、ほぼすべての事案が6ヵ月で終了している。一方、解決金のデータが公表されておらず、予見可能性が低いという課題がある。
2)改善の方向性
ア 労働局のあっせんについては、あっせん参加の任意性を見直すこと、一定程度の事実認定をしてうえで主体的に解決案を示す仕組みを検討することが考えられるが、あっせんの利点である迅速な手続きを妨げる副作用が懸念される。
また、あっせんは2ヵ月以内にほとんどの事案が処理されている。処理期間を公表することで、時間的予見可能性を高める工夫が必要である。解決金額についても同様に公表することで、金銭的予見可能性を高める必要がある。
イ 労働審判制度についても、時間的・金銭的予見可能性を高めるために、処理期間や解決金額を公表することが重要である。
2 解雇無効時における金銭救済制度について
1)あり方
●労働者申立制度と、使用者申立制度の二つが考えられる。
●職場復帰を希望する者は従前通り、希望しない者に新たな仕組みをという考え方になるのではないか。ただし、不当解雇に対する救済の基本は解雇無効による地位確認であるべきではないか。
●労働者申立制度については、ア)解雇無効判決を要件とする金銭救済の仕組み、イ)解雇を不法行為とする損害賠償請求の裁判例の存在を踏まえた金銭救済の仕組み、ウ)実体法に新たに金銭支払いを請求できる権利を設ける金銭救済の仕組みの3つが検討された。
●ア)の類型で処理する場合、金銭の支払いを命じる「給付判決」と労働契約終了という法律関係の変動を宣言する「形成判決」を同時に得る手法が考えられるが、形成原因については、未だ金銭給付がない以上、要件が満たされておらず、形成の判決がなし得ないことが問題として挙げられる。
●イ)は裁判例が少なくリーディングケースもない。そもそも損害賠償することで労働契約が終了するという効果が生じるということが、論理的に説明が難しいため、この方法を採用することは困難とされた。
●ウ)はわかりやすいが、今後、権利の法的性格や権利の要件・効果等の法技術的にさらに検討すべき課題が多いと指摘された。
●使用者申立制度については、不当な解雇や退職勧奨など、使用者のモラルハザードを招く恐れがあり非常に問題が大きいという意見や、導入する場合でも労使の信頼関係が破壊されているという非常に限定的な場合に限るべきという意見があった。
2)必要性
●現行の制度については、閣議決定された「日本再興戦略」改定2015において、紛争解決までの期間やどれくらいの金銭が必要かといったことが明らかでなく、一旦職場復帰した後に短期間で退職することがあることから個人の能力発揮や人材活用の観点から問題が大きいと指摘されている。
●そのうえで検討会で必要性を議論したところ、労働者の選択肢を増やすメリットが指摘される一方で、現行の労働審判制度で調停や和解で解決している現状に悪影響を及ぼす可能性がある、企業のリストラ手段として利用されかねない、解決されていない法技術的論点が多いといった問題点が挙げられた。
3その他の制度について
1)解雇予告期間のあり方
労働者保護の観点から勤続期間に応じて期間の延長が考えられる、解雇予告期間と民法上の解約期間(民法627条だと思われます)との関係を考慮すべき等の意見があった。
2)紛争当事者の負担軽減のありかた
労働者の負担軽減策として、労働組合の支援や民間の保険の活用を検討すべきという意見があった。
3)その他
紛争の未然防止の観点から労働者、使用者双方に対して、労働関係法令への理解が深まるよう周知を行うことが適当であるという意見があった。
以上が私なりにまとめた概要です。解雇の金銭解決制度については、賛否が分かれており、反対する立場からは労政審での議論自体不要という意見も出ているようです。引き続き、議論の行方を見守っていきたいと思います。
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